Merry Christmas Philippines and a Happy New Year

9月。フィリピンがクリスマスシーズンに入ってから、早くも10日経った。

あなたの読み間違いではない。かといって、フィリピンがグレゴリオ暦に従っていないわけでもない。そもそもこの国はカトリックが多数派で、スペイン統治時代から西暦を使っている。ただ単純に、12月25日への助走が異様に長いだけなのだ。

フィリピンには3つの季節がある。夏、台風、そしてクリスマスだ。3-5月にかけては晴れの日が続き気温も35度を超える。6月に入ると雨季が始まり、熱帯低気圧がいくつもやってくる。そして9月1日になると、待ちに待ったクリスマスが解禁される。

そう、解禁されるのだ。

というのも、フィリピンでは「BER」のつく月、つまりSeptember, October, November, Decemberはクリスマスシーズンとされている。だから9月1日になると、ショッピングモールにはツリーが立ち、店内のBGMには一斉にクリスマスキャロルが流れ始め、テレビではクリスマスソング特集をやるのである。4ヶ月間に渡るクリスマスシーズンの幕開けである。日本雑貨のお店に至っては山下達郎やユーミンの和風インスト版を流しにかかってくる始末だ。それじゃ地元民には全くわからないだろうに。

もちろん、全てのフィリピン国民が4ヶ月間鼻からクリスマスソングを垂れ流しているわけではないし、全てのツリーが9月1日から立っているわけではない。分別のあるところでは11月後半から徐々に飾り付けをしていく。それにイスラム教徒の人たちから見れば関係ないし、キリスト教徒でも人生の1/3がクリスマスであることにうんざりしている人たちもいるだろう。しかし事実、多くのフィリピン人はこの時期を待ち遠しにしているのだ。

今日なんか、帰り道に交差点の信号待ちで、盲目のストリートミュージシャンがハーモニカで「サンタが街にやってくる」を吹いていた。投げ銭受けの容器をシェイカーに、ちょっとリズムを崩した演奏。踏んだり蹴ったりだった一日の終わりに聴くと本当にクリスマスが来た様な気がして、不思議とセンチメンタルになってしまったので、ちょっとだけシェイカーの音量を上げておいた。

さて、伝統的には七面鳥の丸焼きを食べるはずのクリスマスに、日本ではKFCの戦略でチキンが覇権を握っているが、フィリピンのクリスマス料理は甘い大きなボンレスハムとこれまた非常に甘いトマトスパゲティ、そしてエヴァミルクベースの甘いマカロニスープである。会社によってはクリスマス祝いに社員にこれらの材料を配ったりするが、半年以上経っても社内の冷凍庫にハムの塊が複数入ったままという目撃証言もあるので、みんながみんな同じものを食べるわけではないのかもしれない。ちなみに、スパゲティとマカロニスープに関しては誕生日祝いでも定番の料理である。一体何が起源なのだろう。別に大して知りたいとも思わないけど。

今から3ヶ月半後、12月25日がクリスマスの日であるが、本来クリスマスはキリストの誕生祝いであるから、1月6日の公現祭(東方の三賢人がキリストに逢いに来た日)まで続く。誕生祝いなのだから前ではなく後に続いた方が自然なのだが、日本では大晦日や正月に備えて25日で終わってしまっている感じがある。一方、フィリピンでは近年、「バレンタインまで何もないのは寂しいからクリスマスを伸ばそう」という風潮ができつつあるらしい。只でさえ年間の1/3がクリスマスだというのに、恐ろしいことにそれを更に延ばして一年の約半分をクリスマスにしてしまおうというのである。バレンタインの始まりが早くなるのとどっちがいいかと聞かれると困るが、そこまで来ると有り難みもへったくれも無くなってしまう。

さて、先ほどの帰り道の交差点。交通量が異常に多く、最近やっと信号が設置されたのだが、困ったことに待ち時間が非常に長い。1回渡るのに2分以上待たされる上、4箇所のうち1箇所には横断歩道がないため、「コ」の字に移動しなければならず、十数メートルの距離を移動するのに5分以上かかる。しかも、信号機がなぜか片方の道にしか付いていないため、交通整理員が配置されていて、ズルもできない。どこかの建物の上から監視もしているらしく、スピーカーからリアルタイムかつ人力の指示も流れてくる。そんな交差点でたくさんの人々と歩行者用信号が青になるのを待っていると、なにやら男子高校生の一群がカウントダウンをしている。3、2、1。

「ハッピーニューイヤー!」

クリスマスでも早いのに、もう新年とは。あまりにくだらず、思わずくすっと笑顔になってしまった。そんな、年末気分の9月のある日。