語学って得する?

 

先日、海外大学留学フェアで出会った高校生からメールで質問が来ました。

「Middleburyは語学が強いそうですが、語学は何の役に立ちますか?」

Middlebury Collegeは米国バーモント州にある私の母校で、語学といえばMiddleburyというほど知られています(当然語学以外にも優れたカリキュラムを広く展開しています)。語学は当然役に立つスキルだと思っている私にはびっくりな質問でしたが、なるほど実際に役に立った経験がなければわからなくて当然です。成功体験があって初めて意義がわかることもたくさんありますが、私の体験をベースに、この質問に対して「グローバル化社会だから」ではない答えを考えてみました。

(以下は、その高校生に送った回答を少しだけ編集したものです。従って、語学だけでなくMiddleburyのことも少し入っています。)

★語学は、コネクションを広げます。
世界中のどんな仕事も、一人ですることはありません。同僚だったり、お客さんだったり、取引先だったり、常に誰か他の人間と働いています。そういったときに、多くの人とコミュニケーションをとれるということは、それだけ自分の活躍できる機会を増やすことにつながると私は考えています。

語学というのは、日本語や英語も当然含まれています。英語ができたら得だ、というのはなんとなく分かるでしょう。でも、多くの国の人たちは、日本人以上に英語ができません(日本は英語が第1言語でない調査対象80カ国中37位)。その代わり、フランス語やスペイン語、ロシア語、中国語なんかができたりします。

たとえば、豊田通商という商社が数年前に西アフリカに事業を一気に拡大しましたが、西アフリカのほとんどはフランス語圏です。日本人でフランス語が流暢に話せる人はあまりいませんが、もし話せれば、こういう会社に入ればとても重要な商談を任されたり、重用されてキャリアアップにつながることでしょう。六本木のハロウィンパーティーでたまたま会ったスペイン人の社長さんに、スペインに本社がある自分の再生エネルギー事業を日本で拡大するために、スペイン語と日本語のできる技術者を探している、と言われたこともあります(科学や工学に語学が加わる仕事もあるのです)。

また、相手が英語ができても、慣れている言語で話した方が深い関係が築けたりします。

先日たまたま仕事終わりにバーで飲んでいたら、隣で在日ポルトガル大使館の経済担当の方が一人で飲んでおられました。当然外交官ですから英語も流暢に話しますが、私がポルトガル語を話すことを知ったら、名刺を渡して今度また会おう、と言ってくれました。自分の母国語を話す人というだけでたいてい興味を持ってもらえるし、さらにジョークなんかが言えたりすると、とても親しみやすくなりますね(デーブ・スペクターとか、ボビー・オロゴンを思い出してみてください。外国人で赤の他人なのに、なぜか親近感が沸くでしょう?)

★語学は、情報へのアクセスを広げます。
科学技術であっても、技術というのは何らかの言語で発表・記述されます。中国の科学技術が著しく発展する今、中国語ができたら、誰よりも早く最新の情報を入手して、中国の技術者たちと最先端の議論ができるかもしれません。また、常に英語や日本語の訳を通して情報を入手していると、海外の政治家の発言であったり、専門書であったりしても、実は大事なところがきちんと訳されていなかったり(翻訳者だってネイティブスピーカーじゃなかったり、ネイティブスピーカーでもその分野の専門家じゃなかったり!)、ひどいときには意図的に解釈を捻じ曲げた訳になっていたりします。なにか「おかしいぞ?」と思ったときに、自分で元の言語の文章にあたれると、「なるほどそういうことだったのか!」ということがよくあります。情報がグローバル化した今日、翻訳に頼っているのは危険かもしれません。

★語学は、ものの見方を広げます。
言語は文化と表裏いったいです。だから、言語によって、同じ物事でもまったく違う見方で考えたりします。たとえば、「勿体無い」「過労死」「オタク」「カワイイ」「頑張って」といった言葉が他の言語に取り入れられたように、他の言語にも日本語にはない概念がたくさんあります。そういった概念を言葉とともに身に着けることで、より自由な発想や、新しい発想をすることができるようになります。当然、他の言語の話者たちは日本人とは全く異なる世界観で生きていることも少なくないので、外国語が話せると、他の人たちの言動やその背景をよく理解できるようになり、またそういった人たちとの交流を通して自分自身をより豊かな人間にしていくことができます。

語学は一つのツールです。もちろん、語学そのものを使う仕事(通訳や翻訳、語学教師、辞書の編纂者など)もたくさんありますが、それ以上に人、考え、いける場所、いろんな意味で世界が広がるのです。そしてツールであるからこそ、ちゃんと使えるものを身につける必要があります(100円ショップの包丁で、美味しいお刺身は切れません)。同じ時間を割くのであれば、質のいい教育を受けた方が上達が早い、というのはなんとなく想像がつくと思います。

Middleburyが語学に強いのは、それを実践につなげる場があるからです。外国語文学を専門に学ぶ学生ももちろんいますが、ツールや教養として学び、全く違う専門を持っている人の方が多くいます。逆に言えば、Middlebury以外の大学でも当然語学に相当に力を入れていますし、アメリカの他の大学にいった日本人の友達もみんな語学は堪能です。しかし、Middleburyは特に語学教育の方法が特殊だったり、サポートする仕組みが充実していたりするので圧倒的に外国語を実践的に使える学生が他校より多く、「語学に強い」といわれています。

私は国際学(の中で地理学・アフリカ学・フランス語を選択)を専攻しましたが、いずれも直接的に仕事には使っていません。しかし、物事を考えるときに、「なぜその場所でそういうことが起きるのか?」「その出来事が社会の他の場所にどういう影響を及ぼすのか?」といった地理学的な考え方や、カメルーンに留学して学んだ「いつ何が起きるか分からないから、普段からいろんな人にこまめに連絡を取っておこう」「お金は汚いものじゃない、他のモノと一緒であげたりもらったりしてもいいし、困ったときにはお互い助け合おう」といった生き方の哲学は日々の生活の中に生きていると思いますし、これからも使っていくと思います。では語学はというと、旅行や留学先で作った友達と連絡を取るのに使ったり、音楽や文学、文化を楽しんだり(ラテンダンスや民俗音楽のYouTubeのレッスンビデオはスペイン語の方が豊富!)していますし、ニッチな言語が必要とされる仕事は多くないかもしれませんが、逆にそういう仕事があればとても有利になるだろうと思っています。

私が上に書いた3つの項目はどれもきっと読めば当然のことですが、普段から外国語を学ぶときにはあまり意識していないかもしれません。しかし、コネクション・情報へのアクセス・新しいものの見方、この外国語学習で手に入る3つのメリットすべてが「自分の可能性を広げ、深めるためのとても強力なツール」です。だからこそ、ただ単に言葉を学ぶのではなく、「その言葉を使って何をしたいか」という目標がある人が言語を早く習得できるのです(カラオケで洋楽を歌いたい、とかでもいいですね)。

いかがでしょうか。皆さんの考えていた「語学のメリット」と一致したでしょうか。みなさんも是非、趣味でも仕事でも、やりたいことにつながる言語を見つけて勉強してみてください。

Author: Yuki

Yuki Takeda is a world champion whistler, recording artist, and live performer known for his masterful control and expressive sound. Based in Japan, he offers international online whistling lessons for students of all levels, helping to spread the art of musical whistling worldwide. Through performances, recordings, and education, Yuki continues to inspire audiences and elevate the profile of whistling as a legitimate musical form.

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *

CAPTCHA